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1st Ticket

Not for theatergoers

劇団チョコレートケーキ「追憶のアリラン」/差別感情は矛盾している

劇団チョコレートケーキ - といえば、2014年読売演劇大賞にて優秀演出家賞などを突然受賞し注目を集めた若手劇団で、またそのファニーなネーミングとは裏腹に、歴史的・政治的なテーマを扱う超・硬派な作風が特徴…という認識でいたが、観たのは今回の『追憶のアリラン』が初めて。

 

この作品についてというよりも、これを観て連想した“民族”を扱った舞台なども思い出しながら考えたことを書き留めておこうと思う。

 

『追憶のアリラン』はタイトルでわかるように日韓関係を扱っており、第二次大戦中、日本占領下の朝鮮(平壌)が舞台だ。日韓といえば、平田オリザさん(青年団)の『ソウル市民』、また来年再再演される鄭義信さんの『焼肉ドラゴン』は強烈に印象に残っている。また、多田淳之介さん(東京デスロック)の日韓共同製作作品『カルメギ』は昨年たいへん話題となり絶賛された。

 

ところで、私自身が日韓のハーフにあたり、“民族”というものには幼い頃からさまざまな考えや感情を持っている。そのために、民族を描いた作品に対するアタリハズレの感覚はとても極端だと自覚している。刺さるものは号泣するし、刺さらないものにはフラストレーションを感じてしまう。

 

本当に極端で、『ソウル市民』『焼肉ドラゴン』が刺さった作品、『カルメギ』『追憶のアリラン』は刺さらなかった作品だ。

その違いについて、今回気づいた。

それは、人物の造形、特に“その人が差別しているか・されているか”の不明瞭/明瞭にあって、前者2作品は不明瞭、後者2作品は非常に明瞭な点にあったと思う。

つまり後者のほうが、「朝鮮人を蔑む日本人&日本人を恨む朝鮮人」「朝鮮人と対等に接する日本人&日本人を憎まない朝鮮人」のように、差別感情が100or0%、その境目がくっきりとわかれていて、100%が悪、0%が善だという前提があるかのような印象を受けた。

(ただし、『カルメギ』はチェーホフの『かもめ』を脚色して1930年代後半の朝鮮に置き換えたものなので、メロドラマ的な展開・キャラクターになってしまっただけだが。そのキャラクター性の重なり方が見事であり、だからこそ刺さらなかったのだ)

 

私の感覚としては、朝鮮人を100%蔑んでいる日本人がいたとしても「朝鮮人を恐怖と力でおさえつけるのが正しいのだ!」というように発言するのは不自然だ。自分を正義だと思っているなら、『恐怖と力でおさえつける』なんて自己悪を自覚しているような言い方はしない。ごく冷静に、疑いの余地もなく、正義に連なる美しい言葉を並べて、支配を実行するだろう。

そしてそれがマジョリティであるから政治的な民族支配がその時代の正義となりうる。『恐怖と力』は、既にそれを反省してしまっている人の言葉であって、当時その人物の言葉ではないと思う。

 

私は個人的に、差別感情と社会的正悪ははっきり結びつかないと思っている。実際、悪い人が差別する、正しい人は差別しない、というほどシンプルではない。なぜなら民族差別とは、他民族に対する優越感でありながら劣等感でもあり、さらなる異化を欲しながらいっぽうで同化を求めるものでもある。常に矛盾したアンバランス感覚であり、むしろ、その矛盾への無自覚、あるいはその感覚が論理的で正当に説明できると過信すること、それを差別というのではないかと思う。

例えば日本人から朝鮮人への差別感情があるとして、それは「日本人のほうが優れているから朝鮮人も真似するべきだ」だけではなく、「日本人が得るべき利益を、朝鮮人が得ているのは略奪だ」というように、被害・被支配意識から生まれていることもある。だが、いずれも行き過ぎた確信にいたれば、暴力的な行動に結びつく。

 

そして、多くの一般市民は100%の差別感情を持ってはいないし、100%の確信がないままに暴力行動を起こしたくはない。

ただし、0%ではない以上、その差別感情は発露するのだ。相手を攻撃したいとか、自分の不当を主張したいとか、そんな直接的なシーンだけでなく、ごくささいな瞬間に無自覚ににじみでる優越感と劣等感etc.矛盾した感情。それが民族意識の真実味だと思う。

 

日韓を扱ってはいないが、三谷幸喜さんの『国民の映画』は民族を描いた戯曲として名作だ。劇中ではナチスユダヤ人抹殺計画について淡々と語るシーンなどもあるが、私が心底震えたのはとてもさりげない一言のシーン。

主人公の妻がユダヤ人執事を守ろうと終始かばっているのだが、とうとう執事は国外追放を命じられる。妻は涙ながらに執事との別れを惜しむ。そしてこうつぶやく。

「残念だわ。ユダヤ人の割には良い人だったのに…」

 

攻撃・加害は一部の真実であり、無自覚と矛盾は差別しうる全ての人の共通点だ。

これを描かなければ、民族の問題を本質的にとらえていると感じられない。

あ、あとミュージカル『Avenue Q』も最高です!

人間とモンスターのセックスシーンは爆笑ものw 『Everyone's A Little Bit Racist』という曲がとっても可愛いんですが、Everyone's A Little Bit Racistですからね、凄いことニコニコ歌っちゃってるんだけど、それが笑える、それを本当に面白く描いてるとこが大好き。