1st Ticket

Not for theatergoers

なぜ、演劇がほしくなるのか?

以前、ある劇団のtwitterで「なぜ演劇を観るのですか」とお客さんにアンケートしたことがある。色々集まったけど根本的には似ていて、大きく分けるとこの三つだった。

【1】ライブならではの臨場感ある演技・演出が観たいから
【2】好きな俳優に近い距離で会えるから
【3】つかの間の現実逃避を楽しみたいから

なるほどそうなのかと参考になったけど、自分もそうかというと少し違う気がした。

【1】【2】
⇔100席の劇場の最前列と、1000席の劇場の2階席の体感は違うし、どちらにしてもドキュメンタリー映画よりも「臨場感がある」とは限らないと思ってる。
10列めより後ろでも、本当に映画やドラマよりも俳優を近くに感じていられるか?
俳優に会いたいだけなら、イベントやテレビ観覧や撮影エキストラと何が違うのか?

【3】
⇔他にもエンタメはたくさんある。
それに、社会的な問題や、日常の家族や恋愛を扱った作品は、現実的で面白くないんだろうか。

 

私はなぜ演劇なの?とよく聞かれてきたので、もうちょっと精緻にその理由を言えると思う。

 

①お得だから。
空間美術も音楽もファッションも、物語も演技も、一つずつ見ても楽しめるいろんな芸術表現を短時間でいっぺんに観ることができる。

 

②知らない人がたくさん集まるところに、一人で行くのが好きだから。
これはライブやギャラリーや、図書館とかカフェとかショッピングとかに出かけたくなる感覚とあまり変わらない。旅行にも近い。もちろん友達と行ってもいい。
これがなぜかはわからない。
ただ、劇場ならではの魅力は、たぶん舞台との距離以上に、客席におさまっている自分の体感の特殊さにあると思う。
映画館では、自分と同じ列と一つ前の列のお客さんまで(※視界に入る範囲)は感じるが、劇場では自分よりかなり前や後ろも含めて、客席全体の人の気配を感じる(※音が聞こえる範囲)。
これはやっぱり演劇を観ることが、音楽のライブを見る時の体感と近いエネルギーを秘めていて、じっとしていられない、ナマの演者に対して客の身体が反応してしまうからでもあると思う。
あと天井の高い室内ならではの、ふわっとした空気の震え。
開演直前を察して、客が「自分の気配を殺そうとする」あの極端な空気の静まり方は他でなかなか味わえない。

 

③自分に違和感を持っているから
これは演出家の鈴木忠志さんが以前言っていたこと。
演劇だけではなく、『昔から童話やシェイクスピアが繰り返し題材にされ、なぜいつもそれを読んだり観に来る人がいるのか?』という文脈だったんだけど、それに対して『物語を必要としている人は、自分に違和感を抱えている気がする』とおっしゃっていて、ハッとした。
この違和感は、変身願望とか自己嫌悪とか直接的なことだけでないと思う。また物語でそれを解決しようとするわけでもない。
たぶん、ストレス、常識やルール、トラウマ、好きなことを好き・嫌いなことを嫌いと言えないフラストレーションとか、ふだん生活していて「これは気にしない方がいいやつ」とセーブしているちょっとした、違和感。
物語、芸術や娯楽は、その違和感にイエスやノーや?を突きつけてくるものだと思う。
その違和感は、ほっといてもそうそう病気にならないとしても、縮んで固まっていく心の筋肉のコリみたいなものだろうか。
そこをぐっと強めに押されると気持ちいい。
そして、やっぱり適度な強さとか相性とか人それぞれ違うから、自分の好みは知っておいたほうがいいんだと思う。
私は強めのほうが好き(笑)。描写の過激さではない。思わず号泣する、爆笑する、激怒する、恐怖する、惚れる、嫉妬する、悩む、発見する、思い出す。観ているだけで自分にそれが起きる。そういう強度のある物語で違和感をぶっ壊されたいから、色んな種類の作品をたくさん観たくなってしまうんじゃないかな。