1st Ticket

Not for theatergoers

甥のこと①

ここ数年で一番影響を受けた人物は、甥かもしれない。
 
産まれたのは2015年、私は28才だった。
もちろん周りにも出産、育児している友達は多く、
兄の子が産まれたときも、他の子と同じく
素直に「おめでたい」というお祝いの気持ちと、
もう一つ「兄に子ができたから私は独身でもいい」という妙な安心感。
兄夫婦も赤ちゃんも幸せになってね~と、微笑ましい気持ちで傍観していた。
 
数ヶ月して、家族の変化が目だってきた。
 
兄が「早く遊びに来いよ、会いたいやろ?」と急かす。
「写真共有フォルダをつくった」と招待される。
会いに行ったら、赤ちゃんに赤ちゃん言葉で話しかける別人のような兄がいた。
親になった途端にこんな別人格が覚醒するのか・・・とびっくりした。
 
母から頻繁に連絡が来るようになった。
「会いに行ける距離なんだからもっと行きなさい」と嫉妬まじりでたしなめられた。
兄夫婦はもともと近くに住んでおり、これまではなんとも言われなかったのに、
子どもが産まれたらなぜ交流を増やさねばならないのか?と私はよくわからなかった。
 
さらに驚くべきことに「あなたも早く子ども産みなさい」と。
いやいやもうわが家には可愛い孫ちゃんがいるじゃないかと反論すると
「息子ではなく、娘の子どもが見たい」という母親心に気づいたそうだ。
妊娠出産のあれこれを娘と分かち合いたいのか。ただ孫がほしいのとは別の欲のようだ。
 
甥は確かに可愛い。
でもまあ赤ちゃんが可愛いのは当然だ。
私は赤ちゃんの可愛さにメロメロするよりも、家族の急な変化にタジタジするばかりだった。